インプラントの骨造成
元々のご自身の骨の環境が良ければインプラントの手術は簡便であり、機能回復にも大きく寄与するものですが、
抜歯時期を見誤った重度の歯周病や外傷などによる極度に吸収した歯槽骨の状態では、人工歯根(インプラント)を入れるための十分な骨を作る必要があります。これは言うならば、家を建てる際、基礎をしっかりさせてから柱を立てる事と同じ様なものです。このステップを怠ると、インプラントが入っても日々のブラッシングに時間を割かなければいけなくなったり、インプラントによる歯槽膿漏(インプラント周囲炎)などの起こる原因になりかねません。
その為には、痩せてしまった欠損部の骨を生体材料などで増やす必要があります。
院長が在籍していた際、大学病院では癌により取り去った部分には足の脛の骨を血管毎移植したり(血管柄付き腓骨移植)、他大学では腰の骨(腸骨移植)などで欠損部の再建を行っておりましたが、入院を要したりする必要もあり腸骨のような軟かい海綿骨では吸収が大きくなります。一方、インプラントを行う場合オトガイ部(下あご)より骨を採取したり、下顎枝(親知らずの後ろや外側)
よりご自身の骨をドナーサイトに填入する術式がメジャーではありましたが、今日では生体材料もより多種に渡り機能もより十分なものが出てきましたので、大きな骨欠損以外ではそういった生体材料を使用する事が多くなってきております。
骨補てん剤には、
骨形成能 (osteogenesis) 移植骨中の細胞自体が増殖し、直接骨を形成する能力。
骨誘導能 (osteoinduction) 未分化間葉系細胞が骨芽細胞に分化し骨形成を誘導する能力。
骨伝導能 (osteoconduction) 細胞が骨を形成するための足場としての能力。
こういった能力のある骨補填剤が必要であり、これらが全て兼ね備わっているものは自家骨移植(AUTOGRAFT)のみとなります。
アメリカでは他家骨移植(ALLOGRAFT)も選択肢の一つであり、所謂他人の骨となります。脱灰されたのち、フリーズドライする事により、免疫反応を起こさせないもので、インプラントメーカー自体も販売しており、当院でもケースによっては使用する場合もあります。ただ、日本国内では厚労省認可を受ける可能性がない為、個人輸入という形で使用することがあります。
他にはBIO-OSSやボーンジェクトのような牛の骨を使用する異種骨移植(XENOGRAFT)があります。
他にもオスフェリオンなどのβ-TCPや炭酸アパタイト製剤、セラミクス骨補填剤などのネオボーン、アパセラムなどのハイドロキシアパタイト骨補填剤などこれらを人工骨移植剤(ALLOPLAST GRAFT)があります。
最も良いのはご自身の骨を使用する自家骨移植となりますが、手術侵襲が大きくなるなどのデメリットもありますので、上記のような骨補填剤を使用することで、骨欠損の回復を図ります。
また、垂直的な骨を作るのは、水平的な骨を作るのと比較すると難易度が高くなります。
吸収してご自身の骨に置き換わらないといけないですが、早期に吸収してしまう骨補填剤では、目標とするボリュームが得られずインプラント埋入の断念、再手術もしくはショートインプラントにしないといけなくなる場合があります。